もしも『浦島太郎』の作者が "aiko" だったら

 

 

 

【もしも『浦島太郎』の作者が "aiko" だったら】

 

 

 

 
あーーーついっていうかこの部屋には浦島太郎という若い漁師が暮らしていました。 
 
ある日、浦島が海辺でひとり背中の水着の跡をもう一度焼き直そうかなどと考えていたところ、一匹のカメが子どもたちに難しい言葉で責め立てられているのを目の当たりにしました。
 
見かねた浦島は、遠くからじっとこらえて見つめているようじゃ駄目だと自分を奮い立たせ、溢れる想いを隠せずまま子どもたちに説教し、カメを逃がしてやりました。  
浦島はカメに向かって「もう捕まるんじゃないぞ!」と声をかけ、手を振って見せました。
 
 
「バイバーイ!」  
 
 
 
 
 
しばらくしたある日、浦島が海辺で釣りをしていると以前助けたカメがあらわれ、「久しぶり」って笑って言ってきました。 
 
 
「浦島さん。この間はありがとうございました。お礼に、竜宮城までテレビゲームしに来ない? さぁ、私の背中に乗ってください。」                  
 
 
 
浦島がカメにまたがると、カメはそのまま、海の底を泳いで光りを遮れるほどの深さまで潜っていきました。   
 
 
海の中はとても幻想的で、見たこともない海藻や、魚の流星群、蒸発する水はとても綺麗でした。     
 
 
 
 
 
いくらか時間が経ちました。知らぬ間に、遥か彼方を泳いできていました。     
 
すっかり心地よくなった浦島は、漂う景色をただ見てるのが好きになっていました。              
 
そうこうして、迷い留まった道の先に、ライオン眠る竜宮城が見えてきました。 
 
 
「浦島さん、ここが竜宮のお城ですよ。さぁさぁ、後ろ振り向かずに、一緒に歩幅合わせて私について来てください。」  
 
 
 
 
 
カメに案内されるがままに御殿に入ると、竜宮に仕えている美しい乙姫たちが出迎えてくれました。  
 
隣で歩く浦島に乙姫は前を向き話しかけます。 
 
 
「竜宮城へようこそ。以前はカメを助けてくださってありがとうございました。どうぞごゆっくりなさってくださいね。」
 
 
浦島は広間に案内され、席につきました。
 
 
 
やがて宴会が始まると、気持ちの良い音楽が流れ始め、魚たちは踊り出し、会場は大いに盛り上がりました。
 
 
豪華なごちそうが並んだテーブルの上を、浦島の視線は、感動のあまり行ったり来たり繰り返しました。  
 
 
 
まるで天国のようです。
 
 
最初こそ、「明日には帰ろう」と思っていた浦島でしたが、もうそんな事も忘れていました。  
あまりの居心地のよさに、時が経つのが日に日に早くなってる気さえしていたのです。
つい、「もう一日だけ、もう一日だけ」と思い、結局、長いこと居座ってしまいました。
 
 
 
 
 
Oh あれから随分経ったのに、胸の片隅に、浦島はふと地上のことを思い出し、「愛する人は今日も元気でやってるかな?」と心配になりました。 
 
そこで思い立ち、浦島は乙姫たちに、この世の果て来た様に「さよなら」を告げることにしました。
 
 
「一緒に過ごした心在る日々。白い服も黒い服も着れて、とても楽しかったです。しかし、私はもう帰ることにしました。今までありがとうございます。」 
 
 
すると乙姫たちは残念そうに言いました。
 
 
「もう帰られるのですか? こうして毎日暮らしませんか?」
 
 
「しかし、風になってでも私の帰りを待っている者たちがいますので」   
 
 
 
浦島がそう返すと、乙姫は「認めるしかない」と笑い、続けてこう言いました。  
 
「絶対忘れたいしないよ。あなたのこと。お土産として、遠い昔に鍵を掛けた玉手箱を差し上げましょう。ただし、この箱は絶対に開けてはいけませんよ」
 
 
浦島は、それがいいのか悪いのか、まだよくわからなかったが、乙姫に礼を告げ、玉手箱を受け取りました。
 
 
 
 
 
帰りたくなかった。より道をして、迷ってしまえと本当は祈っていた浦島でしたが、来た時と同じようにカメに連れられ、無事に地上へと帰ったのでした。  
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、いざ元の世界へ戻ってみると、変わらない街並みなど何処にもなく、浦島が知っている場所は様子が変わっていました。草も壁も濡れてこんなにも色を変えていたのです。 
 
 
浦島は少し悲しくなり、あれも素晴しくてこれも素敵だった竜宮城のことが恋しくなりました。 
 
 
そこで、乙姫がこの空の下くれた七色の玉手箱を開けてみました。
 
 
すると、箱の中から煙がモクモクと上がり、浦島を覆い尽くしました。
 
 
煙が収まると、浦島の顔には真っ白な髭が生え、髪の毛までもが白くなり、若くて凛々しかった顔には、落ちぬ取れぬ消えぬシワが刻まれ、いつの間にか、浦島自身さえも知らない顔、知らない服の老人になってしまいました。 
 
 
 
 
竜宮城で過ごした時間は、宇宙の中で言うチリの様なものかもしれないと思っていた浦島でしたが、実際には、長い年月が経っていたのでした。
 
 
けれど、あのシアワセな日々に比べれば、老人になった苦しみなど、幸せな「より道」なのでした。
 
 
 
 
めでたしめでたし。
 
 
 
 
 
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