髪の毛は、もはや私のものではないのかもしれない

 

 

 
 
爪を切るのにハマっている。爪の先の、白い部分がしっかり伸びてきたのを確認すると、「今夜はお風呂上がりに爪を切ろう」と、少しだけ息が弾む。
 
 
 
 
 
犬歯を触るのが好きだ。上の、前から3本目、先端の尖り具合を、指で触って確認する。鋭く、硬く、愛おしい。
 
 
 
 
 
足首がキュッと細くなっているのが好きだ。ぷくっと膨れたふくらはぎから、美しい曲線を描いたかと思えば、下降し、そこでキュッと細く締まっている。
 
 
 
 
 
 
全部、自分の身体だ。全部、私だけのものだ。この身体は、私のものであり、他の誰にも譲ることはできないし、譲りたくもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1ヶ月に一度、美容院へ赴き、髪を切ってもらう。
自分で前髪を揃えたりする器用な人もいるらしいが、私には、センスも技術もない。
すべて、美容師にお任せだ。
美容師は、私の髪の毛を丁寧に濡らし、シャンプーを施し、1cmほど短くした後、見栄えの良いようにまとめあげてくれる。

資格という形で技術を認められた、熟練した人にしかできない業である。
私の身体から生まれた髪の毛が、私の手に負えないところで、他人によって整えられていく。

私の髪の毛は、もはや私のものではないのかもしれない。