駄文 - バファリンの半分は

 

 
朽ち果てた城で佇む男。

悪の限りを尽くしてきた大魔王も老齢を迎えくたびれた顔で城の窓から下界を眺める。
憎むべき世界を破壊してやろうと、躍起になっていた若かりし頃の自分を懐かしみつつ、これから訪れる自らの最期に想いを馳せる。

私は確かにこの世の中を恨んでいた。すべて壊してやろうと思っていた。
人間の内面に潜む闇を目の当たりにしてきた私にとって、人間を絶滅させることだけが生きる目的となっていたのだ。
私がこの腐った世界を終わらせるのだと本気で思っていた。しかし、人間たちは諦めなかった。
どれだけ犠牲を出して、どれだけ絶望を味わっても、私の元へやってきて、悪事をやめるよう訴えに来た。

私にとって、私の行為は正義である他ない。
だが、彼らも彼らの正義のために、どれだけ苦しんでも、何度も何度も私の元へやって来たのだ。

今、私はこの屋敷で最期の時を感じている。
初めて大きな悪事を成した時に手に入れた、世界一高い山の上に構えるこの屋敷で、"彼" の訪れを待っている。
何が起きても諦めなかった人間が、悪の限りを尽くしてきたらしい私を、人間たちが抱えた闇を具現化した私という存在を破壊しに。

しかし、人間たちはまだまだ甘い。
私がこの世から消え失せたとして、人間たちが抱える暗く深い淀みは、むしろ小さく凝縮されて、一人一人に宿ったまま、誰も気がつけないくらいに少しずつ世界に歪みをもたらし、やがて人間たち自らを喰らい尽くすであろう。

私はあくまで、人間たちのそういった陰りの部分が集まり、ひとつの生命体となった存在にすぎないのだ。
私が消えても影は残る。
これから私の元へやってくる "彼" が、私を倒し、その正義を貫こうとも。

 


バファリンの半分は、人間たちが私を消滅させても依然として世界に存在し続ける、彼らが抱え続ける妬みや僻み、恨みや苦しみといった、心の中で暗く蠢く "何か" でできているのだ。

 

けれども同時に、バファリンの半分は、やさしさでできています。